| 実際、不二へのナンパは確かに凄かったのだ。
中学の時から変わらない不二の体躯は、
アメリカにおいては、
下手すれば女性よりも小柄で華奢な作りといえた。
自然選ぶ服も、ユニセックスなものばかりで、
さらさらの亜麻色の髪も、
柔らかな物腰も、
女性に間違われて声を掛けられ、
性別が判明した後も、
男性の対応はほとんど変わらなかった。
この国は、こんなにバイセクシャルが多いのか?!
と思わずにはいられないくらいに。
手塚は心配で気が気でなかった。
―――確かに、最初は不二が久しぶりに試合を見に来たいといってくれて、
嬉しかったからな。
日本で別れてから、アメリカで再会し、
やっとの事で同居を始めて2年、
それから、ドイツに移り住んで1年。
よく彼は、自分なんかと一緒に居てくれると思う。
随分と我慢を強いて、我侭を許してもらっている自覚はあるからだ。
一度別れ、アメリカで再会を果たし、
また、彼をこの腕に抱きしめることが適っただけでも、
奇跡のようだというのに。
ドイツに移りたいと相談したときにも、
二つ返事で承諾して付いて来てくれた。
不二のいない人生などもう自分にはありえなかった。
「………ホントにダメ?」
「うっ……」
琥珀の瞳にうっすらと膜がひき、声を溜めて話す。
不二の最終手段だ。
手塚はこれに弱かった。
―――しょうがない。かわいいものは、かわいいんだ。
「………わかった。スィートでの観戦にしてくれ」
スタジアムには、オフィシャルスポンサーが
年間契約しているスィートルームというのが存在する。
そこでは食事をしながらの観戦も可能だ。
「ええー!!それじゃ、おもしろくなーいー!」
「それ以外は、却下だ!」
先ほどまでの泣き顔はあっという間に引っ込み、
不二は大声で抗議した。
しかし、手塚もこれ以上、妥協する気は全くない。
「なら、俺が負けた時点で、バカンスに付き合うか?」
「そ、それは……。別に行くのが嫌なんじゃなくて、
実質無理でしょうっていってるだけで」
「無理じゃないぞ」
「やだ!ヘルガに嫌味言われるの僕なんだよー!」
ヘルガとは、手塚のマネージャーである。
典型的なドイツ美人で切れ者のやり手できっついマネージャーだ。
つい先日もCM撮影の後、手塚が暴走して逃走しちゃったせいで、
延々と説教されたばかりだし。
正論しか言わないから、反論できなくて嫌なんだよなー。
毎回、怒られるのが僕っていうのもどうよ?!
「わかった。付き合う。でも、表彰式には出てね」
暗黙のうちに、そのぐらいの成績は取れ、といっているのである……。
「―――わかった」
そりゃー、OKしたけどさー。
それにしても、優勝しなくても。
というか、折角優勝したのに、
もっと、大勢の人の賞賛を受けるべきだと思うんだけど。
前出の約束通り、表彰式終了と同時に手塚は不二をつれてNYを後にした。
手配は完全についていたとしか思えない程の手際の良さである。
しかし、戻ってきてからの周囲のお小言を想像すると
不二は気が重くなるばかりであった。
だが、辿り着いた場所を見て、
すっかりリゾート気分へと切り替わってしまった。
結構、現金なものである。
今、僕たちは、青い空と白い雲と邪魔するもののいない南の島で二人きり。
「どうした、不二?」
足の間に挟むように抱きかかえている不二の耳元で
さらさらと手触りのいい髪を弄りながら、
この上なく甘い声で、手塚は囁いた。
くすぐったい様な心地よい感触が不二の全身を包み込む。
――ホントに。この人は。
触れる手の優しがとても気持ち良くて。
「ううん、なんでもないよ」
確かに、言いたい事はキリがないけれど。
でも、このバカンスが嬉しいのはきっとおんなじくらい。
だから。
「少し寝ていい?」
抱きかかえられたまま、
ちょっと上を向き彼の顎に軽くキスをして、
急激な眠気が襲ってきた僕は、そのまま手塚をベッドにして目蓋を閉じた。
「ああ、ゆっくり休め。起きたら、何か食べに行こう」
「うん。このまま抱いててね?」
「もちろんだ」
ただ、まどろみ、ねむる、この時間が。
いつもと同じ流れ方なんてとても信じられないけど。
疲れた身体と精神をここでは癒せる気がするのだ。
二人だけの、時間。
これが至福。
気持ちよさそうに寝息をたてる不二を見ているうちに、
手塚にも程なく眠りが訪れた。
(おわり)
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